2013年12月8日日曜日

弁理士が起業家を育てる

起業家のための熊本のシェアオフィス「yard」
起業家を助ける弁理士の存在に期待している

スタートアップ企業、零細中小企業は、知的財産の専門家である弁理士がそのシーズを支援できるのではないかと考える。発明品で製造業やITサービスを始めようとしている経営者や個人発明家は、新しいアイデアに関する特許や、新しいネーミングに関する商標の相談で、弁理士事務所(特許事務所)に訪れる。この際に彼らは、秘密保持義務のある弁理士以外には、自らの大切なアイデアをなかなか相談できないことも多い。したがって、弁理士こそが、彼らにとって初めてのビジネス相談になることがある。ここで、彼ら経営者に、「このアイデアは、新規性がないから特許になりません。」とだけしか伝えないと、専門家、しかも、思い切って初めて相談した専門家に自らのビジネスを否定されたような気分になり、彼らのビジネスを根から殺してしまう場合もある。

我々弁理士は、特許や実用新案等の知的財産権の申請をして、権利を獲得するのが主な仕事であるから、当然、特許になるための要件を確認して、獲得できない場合は、そのことを伝える義務がある。しかし、特許は取れなくても、ビジネスで成功する可能性はゼロというわけではない。したがって、特許等の獲得は困難であっても、ビジネスで挑戦する意欲までは失わせない配慮と、むしろ、そのスタートアップのビジネスをサポートする必要があるのではないか。

昨年、宮崎の延岡で福祉用の椅子をステンレスで開発している会社と、宮崎の国富で同じ福祉用の椅子を木材で開発している個人発明家の知的財産権の申請のサポートをした。この際に、この2者は、同じ商品を開発しているにもかかわらず、お互いが知り合っていなかったため紹介したところ、木材で開発していた個人発明家は一部の部品をステンレスで作り始めた。小さな一歩であるが、その後、この個人発明家の製品は大きく飛躍した。


アイデアやブランドの情報が集まる士業である弁理士が、個人発明家や中小企業の、ものづくりのコーディネートをする可能性を感じている。つまり、弁理士が守秘義務のない範囲での、ものづくりに関する情報を社会に有効活用する試みである。今後、弁理士は、知的財産権の専門家という役割に加えて、ものづくりを中心とした起業家の支援者としての役割も提案したい。

2013年10月27日日曜日

マーケティングと知的財産権


トニックシャンプーや、固めるテンプル。カビキラーなどの、定番、ヒット商品を開発した梅澤先生。この梅澤理論は、マーケティングのバイブルとして、多くの大企業の商品開発に応用されている。その真髄はなにか?

私の拙い理解では、下記の部分が根幹的な考え方ではないかと感じた。

「消費者は2度評価する」

つまり、買う前に、「お、この商品買ってみたい」というイメージを持つこと。
そして、買った後に、「この商品、思っていたように良かったな」という心証を持つこと。

梅澤先生は、前者を、「コンセプト」(C)と呼び、後者を「パフォーマンス」(P)と呼んだ。

これを、業界では、CP理論と呼ぶ。つまり、いかに、良いコンセプトを創造して、それを支えるパフォーマンスを得るか。

たとえば、カビキラーは、お風呂のカビを根こそぎ綺麗にするコンセプトで、実際に、素人でも、お風呂のカビを根こそぎ綺麗にできるパフォーマンスを備える商品である(実際にそこまでのパフォーマンスがあるかはわからないが、根こそぎ綺麗になったと素人では感じられる商品であるとは言えるだろう)。

つまり、カビキラーのヒットを支える構成要素としては、

1 「カビを根こそぎ綺麗にできる洗剤」の存在

2 「この洗剤のイメージをすぐに伝えられるネーミング」の存在

3 「この商品を誰もが知って、店頭に買いに行くための広告」の存在

4 「実際に、どこの店舗にもこの商品が並ぶための流通」の存在

5 ・・・・

などが、必要であることがわかる。

このうち、1は、特許を申請することで、その技術を独占して、利益を保護できる。
また、2は、商標を申請することで、ネーミングを独占して、利益を保護できる。

えっ! 知財の役割は、これでおしまいか?

かろうじて、もう一つ見つけることができた。

特許を申請することで、商品コンセプトに対して、これが新規な技術であることを客観的に示す、技術的な保証を与えることができるのではないか。つまり、パフォーマンスが良いのでは、という期待を顧客に与えることができる。

結果として、特許を表示している商品は、通常、今までにない新規技術であるわけだから、購入後の顧客評価であるパフォーマンスも良いはずである。したがって、リピート率が増えるはずである。

ということは、これを学習する顧客は、逆に、特許表示があると、パフォーマンスが高い商品ではないか、と推測する場合が発生するであろう。

知的財産権は、CP理論に沿って考えると、新規商品の一部の保証を行い、営業効果を高め、その利益を持続できる、というのが基本的な役割といえるだろう。

2013年9月1日日曜日

検索エンジンと商標権侵害

ソシデアは弊所の登録商標です!

「うわ、このお店、うちと同じ商品名じゃん。しかも、うちのお店よりも、検索順位が上だし・・」

Googleで、あなたの会社の商品名を検索してみてください。その商品名が、一般的に採用されそうなネーミングであれば、すぐに、同じ商品名で他社の商品が検索結果として、列挙されてくるでしょう。

検索エンジンの普及により、商標権侵害の調査が一般の方でも簡単になりました。

単に、検索窓に、自分の商標を入力して、検索ボタンを押すだけです。これは、商標権者にとっては侵害者をすぐに特定することができるということ。

宮崎等の地方では、残念ながら知財リテラシが高いとはいえないため、商標権を取得せずに、商品やサービスの販売をしていることも多いのが現状です。ですので、東京などの都会の商標権者に、商標権の侵害の疑義があるとして、警告状が送られてくることも多々あります。

これに加えて、昨今の検索エンジンの普及により、特許事務所などの専門家に頼まなくても、自分の商品と同一又は類似の商品またはサービスで、商売を行っている会社を探すことが容易になりました。

「いや、うちは、この商標権者の出願よりも前に、商品の販売をしているから大丈夫ですよ。」

登録商標と同じような商品名を使っている場合に、このように、おっしゃる経営者さんも多いです。実際、商標法上でも「先使用権」という権利が認められていて、商標出願よりも前に、その商標を使用し続けている場合は、商標権者に対して対抗することができます。

しかし、先使用権が認められるためには、「周知性」と呼ばれる条件をクリアしていなくてはなりません。周知性とは、その商品名が、複数の近接都道府県で、その会社の商品やサービスとして、有名であることです。地方の多くの商店では、この要件をクリアするのが難しい・・。実際に、過去に、複数の近接都道府県で知られていたとしても、それを、証明することも難しい・・。

というわけで、先使用権による、対抗も困難な場合も多いというのが私の経験です。

また、サービス業の場合は、商標権侵害の疑義があっても、継続的使用権という権利により対抗することができます。これは、サービスマークの登録制度が導入された1992年9月30日前から継続してサービスマークを使用していた場合は、これを継続して、使用することができるというものです。

しかし、1992年は、既に20年以上も前ですので・・これに該当する商店も少ないし、継続して20年間業務を行っていること、及びこれを証明すること・・が困難であるというのが現実ではないでしょうか。

といったわけで、普通に、商標を申請しましょうよ。信用が蓄積してから商品名を変えるのは、至難の技です。愛着もあります。その信用を知的財産=ブランドという形で、財産化する考え方を、これからの中小企業は身につけていきたいですね。

2013年7月7日日曜日

地方の企業コーディネータとしての弁理士

福祉用の椅子をみんなで意見交換!
(宮崎みらい創造研究会 定例準備会より)
仮に、1週間に3人の経営者の方と出会っていると、1ヶ月で15社。年間で、180社。10年間で2000社近く、知り合うことができます。

宮崎には、弁理士は事実上、5人程度しかいません。ですので、私のところには、1週間に3人は多いかもですが、私のところに集まる名刺は、昨年だけでも200枚以上になっています。これは、私が特別であるということよりも、宮崎は知財の専門家が圧倒的に少ないからだと思います。

しかし、このように企業の情報が集中するということは、これを利用して、地方の企業のマッチングやコーディネートができるのでは、という視点で昨年から、企業のマッチング支援に動き出しました。

当然、我々は、技術経営やものづくりの専門家ではありません。しかし、単純に、自分の知りあっている企業を紹介するだけでも、その企業の発明を次のステップに進めることができるのは、ということを感じています。


先日、延岡で福祉用の椅子をスチールで作っている精板会社がありました。一方、宮崎から車で30分ぐらいの国富で、移乗機能を持った椅子を、木で作っている会社がありました。これらの会社は、それぞれ、実用新案や特許を申請するために、私の事務所に依頼していただきました。当然、私は彼らを知っていますが、彼ら同士はお互い知りあっていません。


また、これらの会社の商品は、同じ発明ではなく、競合することもありませんが、大枠の技術分野は関連しています。ですので、技術交流があれば、さらに、お互いのものづくりが進むはずだなということが直感できます。

両者ともに、無事に出願申請が終わった段階で、彼らは、こう言います。


「さらに、この発明を次のステップに進めるにはどうしたらよいですか?」


例えば、この場合は、僕らは、福祉用椅子の技術分野の専門家ではないので、素人目線での指摘はできますが、もっと高度なアドバイスは、専門家同士が意見を交換すべきです。


「それなら、先日、福祉用の椅子に関連した分野のXXさんと出会ったので、紹介しましょうか?」


その後、飲み会を経て、知り合った後は、紹介した僕を離れて、お互いの密な交流が始まりました。しばらくして、国富の方は、木にスチールも加えた移乗用椅子をさらに、改良されて作られました。つまり、お互いの交流がものづくりを次のステップへ進めたのです。

このように、弁理士が、ちょっとした、ものづくり支援の活動を行うことで、本来の知財サービス以外にも、弁理士って役に立つよね、と発明者に感じてもらうようになるなあ、と思っています。

つまり、発明や新製品で、次のステップに進みたいのなら、弁理士事務所に行ってみようかな・・、というような発想です。

実際には、発明は、発明の数だけ専門分野があり、弁理士と言えども、全ての専門性を備えることは不可能です。しかしながら、地域の専門性のある企業を結ぶつけることができるコーディネータであれば、弁理士でも可能であり、弁理士に相談すれば、近所で同じようなことを考えている人を紹介してくれる・・と思ってもらえれば・・。

「製品を次のレベルに上げるには、人との出会いが必要だ。」

と言っていた発明家もいました。次のレベルに上がれば、社会で成功する確率も高まりますし、あらたな知財を産み出す可能性も生まれます。

この、人との出会いを演出できるのが我々の役割の一つでもあるのでは、と感じています。

2013年5月5日日曜日

企業の創造を喚起する。それが弁理士です。


創造的なデザインを喚起するセミナーを工業デザイナの松熊さんと一緒に企画させて頂きました!


「弁理士さんて、特許出してもらって商売しているんですよね。その場合、特許性が厳しい発明の相談はどうするのですか?」

そうなんです。僕ら弁理士は、ジレンマを抱えています。

発明や考案の調査能力が高い弁理士ほど、お客さんが提案するアイデアと同一又は類似の発明を探すことができます。

しかし、探しあててしまっては、特許出願はされなくなってしまいますから、仕事がなくなってしまうのです・・。

とはいえ、我々の仕事は、国家資格です。利益を追求する株式会社ではありません。ですので、特許性が厳しくても、見て見ぬふりをして特許を出してしまう・・といったことは、さすがに出来ません。


では、特許性が厳しい場合に、どのような対応をするのか?

従来の弁理士は、「調査の結果、新規性(発明が新しいこと)がなさそうですし、仮に新規性があっても、進歩性(発明が進歩的なこと)が厳しいので、残念ながら特許は出せません」(以上!)という形で、お帰りいただいていました。

これからの弁理士は、どのような対応をするのか?

「今回、ご提案いただいた発明自体は、新規性はわずかに有りそうですが、高額を払って特許を出すのであれば、もう少しだけ飛躍したアイデアもいれこんではいかがでしょうか?今回の部分のみで、特許を挑戦すると、NGだったときに、どうしようもありません。ですが、その新規の部分をさらに進めたアイデアが2,3入っていれば、審査中に発明を限定していくことで、特許率が高まります。」

「今の新規と思われる部分は、こういった方向です。ですので、この方向をさらに進めるアイデアを、いくつか社内でブレスとしてみてはいかがでしょうか?」

このように提案すると、ただ単に、特許性がない!と断れられるよりも、やってやる!という気になりませんか?

特許は成立まで50万円近くかかります。決して、安いお金ではないですので、出すときに、少しでもアイデアを加えて、特許を成立させる工夫が必要でしょう。

また、中小企業は、忙しい毎日を過ごしていると、新規な製品アイデアのブレスト会議をやるきっかけが見つかりません。そのような会議は、いつでもよいので、他の仕事に比べて、優先順位がつい、下がってしまうのです。

ですので、「今度、弁理士さんが来るまでにブレストをやっておこう!」と経営者に思わせることは、とてもよいきっかけになります。さらに、「今度来た時には、弁理士さんをあっと言わせる、アイデアを考えておこう!」というように、モチベーションが上げられれば、なお、素晴らしいことです。

特許を出して、取得することも大事ですが、実は、それ以上に、自分たちの会社の仲間と、常に新しいアイデアを出しあうような時間をもったり、モチベーションを高めたりすることが、何より大事です。

そういった視点で、弁理士を活用いただければ、弁理士も、ただの手続き代理人さん、の地位を変えることができるように思います。

未来を創造することを喚起する士業、それが弁理士であって欲しいし、それが弁理士の使命だと思います。

是非とも、あなたの未来を創る弁理士をご活用ください!

2013年2月21日木曜日

ブランドイメージがまだない場合に商品価値を上げるには


「私みたいな実績もない個人が、いくらいい物を発明して、販売しても、買い手にはどんなにいいものか伝わらないんです。例えば、過去に有名な販売実績があったり、どこどこの教授だとか、その業界の権威であったりすれば、買い手も話をきこうという気になりますが、今の段階では、物を提供する側に、買い手を信用させる理由付けがないので難しいです。」

元社会保険労務士のHさんは、福祉関係の企業を顧客としていたため、自らも福祉関係の器具を発明するようになりました。その発明品は、私も目をみはるほどの効果があります。しかし、物がどんなに良くても、売ることとは別の”信用”という側面も。

「なので、株式会社を立ち上げたり、説明のためのパンフレットを作成したり、SGマークの取得をしたり、特許を取得して、製品の客観的な信用を高めています。少しづつですけどね。」


福岡の発明家、Nさんは、写真の物体の開発者。これ、なんだと思いますか?全方向に音が飛ぶスピーカなんです。聴く場所を選ばず、立体的に音が聴こえるため、部屋のオーディオとしても最適であることはもとより、オルガン等のコンサートにも利用されるということ。インテリアとしても格好良いですよね。「SOGNA」というブランドで販売しています。

「このスピーカを開発したことで、自分自身が、しっかり商売しなきゃなって、思っているんです。試行錯誤を重ねて、なんとか、これだけの商品に到達できたので、この商品に自分が追いつくように、会社の足腰をしっかり固めたいと思っています。」

商品力により、会社や社長さんの襟元が正されるって、素敵ですよね。

「僕は、過去の販売実績やブランドががないので、この商品を東京で売ろうとしても、とても難しいんです。先日、欧州のデザイン見本市に、出店しないかと言われました。欧州で販売実績が出れば、日本の人も買ってくれる。つまり、商品価値を純粋に見るのは欧米の人のほうが残念ながら優れているので、向こうの方が成功しやすいのではないかと思います。」

日本情けない?というのは言いすぎかもしれませんが、なにも、東京を頂点とする理由は全くなく、むしろ、欧州で成功して、アジアに展開のほうが、よっぽど、将来性のある成功のようにも思えます。特に、このようにデザイン性の優れて商品は、欧米向きとも言えるのでしょう。

商品価値を上げるための工夫は、その商品を誰が求めているか?という視点が大事なのだと感じました。